中古車の注文書・売買契約書の書き方|記載事項と支払総額、キャンセルの扱い

中古車の注文書と売買契約書は、店頭や広告で表示した内容をそのまま契約に移すための書類です。表示と注文書の金額や条件がずれると、規約違反や「言った、言わない」のトラブルにつながります。この記事は中古車屋の開業ガイドの一つとして、「中古車の注文書と売買契約書」の作り方を扱います。記載事項と支払総額、キャンセル時の扱いを一次情報で確認し、自動車公正取引協議会(公取協)の資料、消費者庁の特定商取引法ガイド、e-Gov法令検索の条文をもとに、開業前に用意しておく書式を具体的に説明します。
この記事で確認した一次情報
- 上手なクルマの買い方マニュアル 中古車編 契約にあたって(自動車公正取引協議会)注文書と約款、口約束の扱い
- 中古車の販売価格の表示が「支払総額」に変わりました(自動車公正取引協議会)諸費用に含めるもの、請求できないもの
- 訪問販売(消費者庁 特定商取引法ガイド)訪問販売の定義とクーリング・オフ
中古車の注文書と売買契約書の役割
中古車の注文書とは、お客様がどの車をどの条件で買うかを書面にしたもので、裏面などに印刷された約款と合わせて売買契約の内容になります。自動車公正取引協議会の「上手なクルマの買い方マニュアル 中古車編」は、消費者に向けて、注文書の取り交わしと約款の熟読、約束ごとを注文書の備考欄に書いてもらうこと、走行距離と修復歴を必ず紙面に残すこと、注文書の控えと保証書を保管することを勧めています。公取協に寄せられる相談でも「買う時には確かに約束した」「そんなことは言っていない」という争いが非常に多く、第三者が判断できずに水掛け論で終わる例がほとんどだと書かれています。販売店にとっての注文書は、説明した内容を証明する唯一の記録です。
注文書と売買契約書を分けて作る店もあれば、注文書と約款の組み合わせで売買契約書を兼ねる店もあります。この記事では両方をまとめて「注文書」と呼びます。どちらの形でも、記載がない約束は後から証明できないという点は変わりません。
中古車の注文書に書く記載事項
中古車の注文書の記載事項は、法律で一律に決められているわけではありません。ただし、自動車公正競争規約が店頭表示や広告で必ず示すよう求めている項目は、お客様が購入を判断した前提そのものです。公取協の「中古車に関する規約のポイント」には、支払総額と内訳、初度登録年月、車名と主な仕様、定期点検整備の有無、保証の有無、走行距離数、修復歴の有無、使用歴、前使用者の点検整備記録簿の有無、自動車検査証の有効期限、リサイクル料金の11項目が並んでいます。これらを注文書にも同じ内容で書いておけば、表示と契約のずれが起きにくくなります。下の表は、規約上の表示項目と、実務で注文書に加えたい項目を分けて整理したものです。
| 区分 | 注文書に書く項目 | 根拠や理由 |
|---|---|---|
| 車両の特定 | 車名、型式、車台番号、登録番号、初度登録年月、色 | 古物台帳の特徴欄と同じ情報で照合できる |
| 車両の状態 | 走行距離数、修復歴の有無と部位、使用歴、車検の有効期限 | 規約の表示項目。公取協も紙面に残すよう案内 |
| 価格 | 車両価格、諸費用の内訳、支払総額 | 規約の支払総額表示(2023年10月1日施行) |
| 整備と保証 | 定期点検整備付きかなしか、保証付きかなしか、保証の内容と期間又は距離 | 規約の表示項目。保証付きなら保証書を交付 |
| リサイクル | 預託済みか未預託か、預託金相当額 | 規約の表示項目 |
| 追加の注文 | オプション、希望番号、管轄外登録、納車場所 | 支払総額に含まれない費用を分けて書く |
| 下取車 | 車名、車台番号、査定額、残債の有無 | 下取車の手続代行費用は支払総額の外 |
| 支払い | 現金、ローン、自社分割の別、支払期日 | クレジット利用時は契約成立の扱いが変わる |
| 納車と名義 | 納車予定日、名義変更の担当 | 移転登録は所有者変更から15日以内 |
| 特約と約款 | 契約成立の時期、キャンセルの条件、備考欄の約束 | 公取協が約款の確認を推奨 |
登録自動車の名義変更(移転登録)は、道路運送車両法第13条で、所有者の変更があった日から15日以内に新所有者が申請することになっています。実務では販売店が代行することが多いので、誰がいつまでに手続きするかを注文書に書いておくと、納車後の連絡漏れを防げます。
公取協の広告表示FAQには、廃止された「自動車取得税」などの税目が印刷された注文書について、当該箇所を訂正するなど適切に表示すれば在庫がある間は使えるという回答があります。税制が変わったときは、印字済みの欄を必ず見直してください。
注文書の支払総額と諸費用の書き分け
中古車の支払総額とは、車両価格に、その車を買うために最低限必要な諸費用を加えた価格です。自動車公正競争規約と施行規則の改正が2023年10月1日に施行され、中古車の販売価格は「支払総額」の名称で表示することになりました。公取協の解説によると、支払総額に含める諸費用は、保険料(自賠責保険料)、税金(自動車重量税、自動車税の月割り相当額、検査登録や車庫証明の証紙代、リサイクル預託金相当額)、登録等に伴う費用(検査登録手続代行費用、車庫証明手続代行費用)です。支払総額は、販売店の管轄の運輸支局で登録し、店頭で納車する場合の価格として示します。注文書でも、この内訳と同じ区分で金額を書くと、広告の支払総額と契約金額を並べて確認できます。
| 区分(公取協の解説) | 具体例 | 注文書での扱い |
|---|---|---|
| 支払総額に含む諸費用 | 自賠責保険料、自動車重量税、自動車税の未経過相当額、証紙代、検査登録と車庫証明の手続代行費用 | 支払総額の内訳として記載 |
| 支払総額に含まない費用(要否がお客様で異なる) | 任意保険料、希望番号の費用、管轄外登録の追加費用、納車費用、下取車の手続代行費用や査定料 | お客様の依頼があった分だけ、別の欄に記載 |
| 諸費用として請求できない費用 | 納車準備費用、通常仕上費用、納車点検費用、土日祝納車費用、販売手数料、オークション陸送費、広告掲載料 | 車両価格に含める。別項目で請求しない |
保証や定期点検整備を必ず付けて売る場合、その費用も車両価格に含めて表示します。公取協が2025年7月25日に公表した措置では、「保証付」と表示しながら保証の費用を別に請求したことや、根拠のない土日祝納車費用を購入の条件にしたことが規約違反とされました。注文書の書式に「納車準備費」や「整備費(必須)」の欄が残っていると、それだけで違反を招きやすくなるため、開業前に削っておきます。
修復歴や保証を伝える書面と注文書の関係
自動車公正競争規約では、店頭展示車が特定の車両状態に当たる場合、必要な事項を書面で表示し、その書面を購入者に交付することになっています。公取協の「品質表示に関するルール」によると、走行距離数に疑義がある車両、修復歴がある車両、定期点検整備なしで要整備箇所のある車両などが対象で、交付した書面の写しは作成の日から2年間保存します。通信販売の購入者にも同じ書面を交付します。保証付きで売る場合は、施行規則第11条により保証書を交付し、保証満了日まで写しを保存します。注文書の備考欄には、こうした書面を交付したことと、その書面の名称を書いておくと、何を説明したかが後からたどれます。修復歴がある車を「修復歴なし」と表示した事業者に対し、公取協が2026年4月23日付で違約金200万円の措置を採った例もあり、書面の交付は表示と同じくらい重く扱われています。
- 修復歴ありの車は、修復の部位を書いた書面を渡し、注文書の備考欄に交付したことを書きます。
- 走行距離に疑義がある車は、「?」の記号と推定キロ数又は「不明」を表示した書面を渡します。
- 保証付きの車は、保証書を渡し、保証の内容と期間又は距離を注文書にも書きます。
- 定期点検整備付きの車は、点検整備記録簿などを交付します。
保証の付け方と保証書の書き方は、関連記事の中古車の保証の付け方で詳しく扱っています。
中古車の契約成立の時期とキャンセルの扱い
中古車の売買契約がいつ成立するかは、注文書の約款で決まります。公取協が2014年4月に公表した資料は、中販連監修の注文書標準約款の条文を引用しています。それによると、契約の成立日は、自動車の登録がなされた日、注文により改造、架装、修理に着手した日、自動車を引き渡した日のいずれか早い日です。信用購入あっせん(クレジット)の場合は、その契約の定めによります。成立前であれば、お客様はキャンセルできます。成立後は一方的なキャンセルはできず、販売店との合意(合意解除)が必要です。同じ資料は、署名や捺印で契約成立とする独自の約款を使う販売店もあるとしたうえで、成立が早まる点に注意を促しています。
キャンセル料については、消費者契約法第9条第1項第1号が上限の考え方を定めています。契約の解除に伴う損害賠償の予定や違約金を合算した額のうち、同種の契約の解除で事業者に生じる平均的な損害の額を超える部分は無効です。公取協の資料も、100万円の中古車で20万円のキャンセル料を求められた相談に対し、明細を求めて合理性を話し合うよう回答しています。車両代金の一定割合を一律に取る約款は、実際の損害の説明がつかないと争いになります。
| タイミング(標準約款の場合) | 契約の状態 | 販売店の対応 |
|---|---|---|
| 注文書に署名しただけ | 成立前 | キャンセルに応じる。費用は請求しにくい |
| 整備や修理に着手した後 | 成立 | 合意解除。実費の明細を示して協議 |
| 登録した後 | 成立 | 合意解除。登録費用などの実費を説明 |
| 引き渡した後 | 成立 | 合意解除。返品の条件を個別に協議 |
中古車のクーリング・オフの適用と通信販売の返品
中古車の購入にクーリング・オフは原則として使えません。理由は二つあります。一つ目に、店舗で契約した取引は特定商取引法の訪問販売に当たりません。消費者庁の特定商取引法ガイドは、訪問販売を、販売業者が営業所等以外の場所で契約を締結するなどして行う販売と説明しています。二つ目に、訪問販売や電話勧誘販売に当たる場合でも、特定商取引法第26条第4項第1号により、交渉が相当の期間にわたることが通常である商品として政令で定めるものには、クーリング・オフ(第9条と第24条)が適用されません。施行令第14条はその商品を「自動車(二輪のものを除く。)」と定めています。ただし、キャッチセールスやアポイントメントセールスは営業所で契約しても訪問販売に当たる場合があるとガイドは説明しているので、勧誘の方法には注意が要ります。
インターネットで全国に売る通信販売は扱いが違います。消費者庁のガイドによると、通信販売では、商品の引渡しを受けた日から8日以内であれば契約の撤回や解除ができ、送料は消費者負担となります。ただし広告にあらかじめ返品についての特約を表示していれば、その特約に従います。ネット販売を始める店は、返品の可否と条件を広告と最終確認画面に表示しておく必要があります。
自社でお客様に分割払いを提供する場合は、割賦販売法の対象になる場合があります。経済産業省は、割賦販売や信用購入あっせんについて書面交付などが義務づけられていると説明しています。ローン会社を使う場合も、注文書の支払方法の欄と契約書の内容を合わせておきます。
開業前に用意する注文書のチェックリスト
中古車屋を開業する前に注文書の書式を固めておくと、最初の1台から表示と契約の内容をそろえられます。確認の軸は三つです。一つ目は、自動車公正競争規約の支払総額表示(2023年10月1日施行)に合わせ、車両価格と諸費用を同じ区分で書けること。二つ目は、修復歴や保証などの書面を交付した記録が残ること。三つ目は、契約成立の時期とキャンセル時の精算方法が約款に書かれ、消費者契約法第9条の平均的な損害の考え方で説明できることです。市販の注文書や他店の書式を流用する場合も、廃止された税目や請求できない費目の欄が残っていないかを一行ずつ確かめます。下のリストを、書式の最終確認に使ってください。
- 支払総額、車両価格、諸費用の内訳が、広告やプライスボードと同じ区分で書ける書式になっている。
- 納車準備費用、通常仕上費用、必須の整備費など、請求できない費目の欄が残っていない。
- 修復歴、走行距離、保証、定期点検整備の欄があり、交付した書面の名称を備考に書ける。
- 約款に契約成立の時期とキャンセル時の精算方法が書かれ、お客様に説明できる。
- キャンセル料の定めが、実際にかかる費用で説明できる額になっている。
- 名義変更の担当と期限(所有者変更から15日以内)を書く欄がある。
- 控えを渡し、自店の控えを保証満了日や書面保存の期限まで保管する手順が決まっている。
注文書の情報は古物台帳や会計帳簿とも重なります。販売した車も自動車は古物台帳への記載が必要です。帳簿との関係は古物台帳の書き方、開業費用の全体像は中古車屋の開業資金で確認できます。許可を取る前の段階なら、古物商許可の取り方から読むと順番が分かりやすくなります。
まとめ
中古車の注文書には全国共通の法定様式はありませんが、自動車公正競争規約の表示項目を同じ内容で書いておくことが、表示と契約のずれを防ぐ基本です。価格は、2023年10月1日から義務になった支払総額の考え方に合わせて、車両価格と諸費用(保険料、税金、登録等に伴う費用)を分けて書きます。納車準備費用などは諸費用として請求できません。修復歴や保証は書面で交付し、注文書の備考欄に交付したことを残します。契約成立の時期は約款で決まり、公取協が紹介する標準約款では登録、着手、引渡しのいずれか早い日です。キャンセル料は平均的な損害を超える部分が無効になります。自動車の販売はクーリング・オフの対象外ですが、通信販売では返品特約の表示が必要です。
中古車の注文書と売買契約書に関するよくある質問
- 中古車の注文書に決まった様式はありますか?
- 法律で定められた全国共通の様式はありません。自動車公正取引協議会の資料では、日本中古自動車販売協会連合会(中販連)が監修した注文書の標準約款が紹介されています。自社で作る場合も、車両を特定する情報、支払総額と内訳、保証や整備の内容、契約成立の時期とキャンセルの条件が読める形にしておくと、後のトラブルを防げます。
- 中古車の売買契約はいつ成立しますか?
- 注文書の約款で決まります。公取協が紹介している中販連監修の標準約款では、自動車の登録がされた日、注文により改造や架装、修理に着手した日、自動車を引き渡した日のいずれか早い日が成立日です。クレジット契約の場合はその契約の定めによります。署名した時点で成立とする独自の約款を使う販売店もあるため、自店の約款を説明できるようにしておきます。
- 中古車の購入はクーリング・オフできますか?
- 店舗で契約した場合は、特定商取引法の訪問販売に当たらないため、クーリング・オフの対象になりません。訪問販売や電話勧誘販売であっても、特定商取引法第26条第4項第1号と施行令第14条により、自動車(二輪を除く)の販売にはクーリング・オフの規定が適用されません。
- キャンセル料は車両代金の何%まで請求できますか?
- 割合の上限は法律で決まっていません。消費者契約法第9条第1項第1号により、解除に伴う損害賠償の予定や違約金のうち、同種の契約で事業者に生じる平均的な損害の額を超える部分は無効です。公取協も、約款に定めがあっても合理的な額を超える請求に応じる必要はないと案内しています。実際にかかった費用の明細を示せるようにしておきます。
- 注文書の諸費用に「納車準備費用」を入れてもよいですか?
- 入れられません。公取協の支払総額の解説では、納車準備費用や通常仕上費用など、名称を問わず販売店が当然行う作業の費用は諸費用として請求できず、車両価格に含めて表示するものとされています。別に請求すると、表示された価格で購入できない不当な価格表示になります。
- 中古車販売を始めるとき、車両や顧客の管理はどうすればよいですか?
- 販売する車の仕入れ値・整備費・売値、顧客の情報、注文書や保証書を1か所で扱えるのが車両販売システム(車販ソフト)です。整備も行う場合は自動車整備システム(自動車整備ソフト)とデータがつながるかを確認します。整備システム 比較や整備ソフト おすすめの情報を見るときは、整備ソフト 安いかどうかだけでなく、整備システム リースなしで始められるか、開業時の台数に合うかも確かめてください。
出典
この記事は次の一次情報をもとに作成しています(2026年10月4日確認)。
- 自動車公正取引協議会 上手なクルマの買い方マニュアル 中古車編 契約にあたって:https://www.aftc.or.jp/contents/am/jouzu/chuuko/keiyaku.html
- 自動車公正取引協議会 中古車の販売価格の表示が「支払総額」に変わりました:https://www.aftc.or.jp/contents/am/shiharai/index.html
- 自動車公正取引協議会 キャンセルに関するトラブル相談が増加しています(2014年4月):https://www.aftc.or.jp/content/files/am/shohisha/info_201404.pdf
- 自動車公正取引協議会 品質表示に関するルール:https://www.aftc.or.jp/contents/am/kiyaku/chuuko/hinshitsu.html
- 自動車公正取引協議会 自動車公正競争規約集:https://www.aftc.or.jp/content/files/am/kiyaku/HP_kiyaku_202304.pdf
- 自動車公正取引協議会 広告表示FAQ 注文書の税目表示:https://www.aftc.or.jp/content/files/am/kiyaku/kokokuFaq/new/30/new_30_003.pdf
- 消費者庁 特定商取引法ガイド 訪問販売:https://www.no-trouble.caa.go.jp/what/doortodoorsales/
- 消費者庁 特定商取引法ガイド 通信販売:https://www.no-trouble.caa.go.jp/what/mailorder/
- 特定商取引に関する法律(e-Gov法令検索):https://laws.e-gov.go.jp/law/351AC0000000057
- 特定商取引に関する法律施行令(e-Gov法令検索):https://laws.e-gov.go.jp/law/351CO0000000295
- 消費者契約法(e-Gov法令検索):https://laws.e-gov.go.jp/law/412AC0000000061
- 道路運送車両法(e-Gov法令検索):https://laws.e-gov.go.jp/law/326AC0000000185
- 経済産業省 クレジット取引(割賦販売法):https://www.meti.go.jp/policy/economy/consumer/credit/index.html
